母の大手術
母の大手術
僕が中1の時に2回目、そして高1の時に3回目と母は3年置きに手術を繰り返した。
さすがに、この頃になると薄々気づいていた。
母は癌なのだ。
特に、3度目は1月以上の入院が必要な大手術だった。
術後の母の頭は見るからに痛々しい様子で髪はすべて丸刈りにされ、左側頭部にはガン細胞を切り取るため大きく切開された手術跡。
何より、半円を描くように付いたその傷の内側が「べコッ」とジャガイモのように凹んでいたのが見るに耐えなくて、強いショックを受けた
脳腫瘍である、と父は決して言わなかったが頭蓋骨をえぐらなければならないほどの病気なのだ、ということは理解していた。
母が放射線治療まで終え、退院して家に戻って来た日のことは鮮明に覚えている。
当時16歳の僕は少々グレていて、高校にはほぼ行かない、不登校というカタチだった。
その日の夜、二階の僕の自室に退院したばかりの母が突然やってきてそんな僕の現状について説教というか、嘆くというか、ともかく捲し立てるようにしゃべり出したのだ。
これには面喰った。
だって母はガンの大手術を終えたばかり。退院したままの寝巻姿で、坊主頭に包帯を巻き、とても「まとも」な状態には見えなかったからだ。
しかも、言っていることがなんだかちぐはぐで、同じことばかりをただ何度も繰り返したりもするので支離滅裂で、うっとうしいと思った当時の僕は
「もう出て行ってくれよ。」
と母の肩をポンっと押した。
すると、母は座ったままの状態で「コテン」と倒れてしまったのだ。
きょとんとして見ていたら、亀のようにもがいた後「お父さん…助けて?…」と、か細い悲痛な声を上げた。
どうやら自力で起き上がれないようだ。
あわてて背中を抱いて助け起こしたもののなんだか無性に悲しかった。
自分で体を起こせないほど弱っていたこともそうだが一瞬、本気で「息子に殺される」とでも思っていたかのように父に助けを求めたこと。
母は、ガン細胞を取り除くため脳の一部までも切り取られてしまっていた。
そのため思考が定まらず、自分の体のコントロールもできなくなってしまったのだ。
「母は別人になってしまった。」
と思い、僕は絶望感に目の前が真っ暗になった気がした。