癌患者だった母の生きがい

冬の寒い日のこと、母が編み物を始めた。

「テレビ見てると眠っちゃうから」

だそうだ。

 母はガンの疼痛緩和のため痛み止めのオピオイドを飲んでいるので、一日の半分以上は眠っている。その時間がもったいない、ということらしい。

 確かに、手指を動かすのは健康によさそうだし何か作りモノをすることで「目標」ができて、生きる力も沸いてこようというもんだ。

僕が戻った当日や翌日より、ここ数日は体調も良さそうで食事の量も少しだが増えた。

左耳から顔の筋肉にまでガンが広がっているせいで左の頬がパンパンに腫れあがり、かなり痛むようなので栄養補助の医療用飲料やヨーグルト、ベビーフードをさらにドロドロになるまで父が潰して与えている。

歩行や手作業は問題ないので、料理や洗い物なんかは自分から進んでやり出す。

 最初こそ

「いいから、任せて座ってなよ!」

なんて言ったもんだが、「これも母の「生きがい」のひとつなわけだよな…」と思いなおし、できる家事は母にやらせることにした。

それに、なるべく動いていた方が体が活性化するし、ガンの痛みを和らげることにも繋がるだろう。

そんなわけで、毎度の食事は母と父と僕、3人でワイワイ言いながら作る。

母だけでなく、なんだか父までも楽しそうだ

僕が家に居ることで、少しでも母の体に「癌と戦う力」が湧くように父とたくさん協力して行こうと思った出来事だった。